2020年―コロナ禍の在日外国人と日本社会を振り返る―

 コロナによって、この一年で様々な物事が変わった。未だ国内外を自由に行き来することもままならず、観光や飲食といった産業が非常に大きな打撃を受けつづけている。いずれこれは経済全般に大きなダメージとして広がっていくだろう。

 この社会に住む多くの在日外国人も同様に、コロナ禍で大きな変容を迫られており、その動きは依然として流動的でもある。

 ここでは、コロナ禍の1年が、日本で学び、働いてきた外国人留学生、実習生達にとってどのような影響を与えるものであったのか、関連する出来事を時系列で、簡単に整理してみた。

 

2020年

1~3月

 中国・武漢市から帰国した中国籍の男性が新型コロナウィルスに感染したことが判明したのが2020年1月16日だった。その後、2月3日には、乗客の中でコロナ感染が判明したクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス」号が横浜・大黒ふ頭に入港、いわゆる「クラスター」が初めて本格的に相次ぐ事態に見舞われた。さらに、外国から入国する船舶については、日本近海を航行していた香港船籍の「ウエステルダム」号の外国人乗客への入国制限が行われるなど、2月中は徐々にコロナの影響が社会を覆ってきた。

 

 外国からの入国制限では、政府はまず2月1日に新型コロナウィルスの発生地である湖北省から日本へ入国する外国人の入国拒否を決定、同13日には浙江省に14日以内に渡航したことのある外国人について日本入国の制限を行うこととした。これに伴い、国内の旅行会社では中国への個人・団体ツアーのキャンセルが相次いだ。

さらに、3月には中国及び韓国からの入国者に2週間の隔離措置を取るとともに短期ビザの停止することを安倍首相(当時)が表明し、21日には欧州全域、エジプト及びイランからの入国ビザの効力停止、23日には米国からの入国制限が始まった。

 

 このように、中国・武漢を主な発生源とする新型コロナウィルスの脅威がじわじわと列島へと浸透してきたのが1~3月の特徴である。この時点では、まだ短期ビザの停止に留まっていたことから、外国人技能実習生や留学生も何とか日本への入国が間に合った時期である。なおかつ、国内の経済活動についても次項に示す緊急事態宣言が発令されるまでの間、その勢いをおおむね維持していたところであった。この状態は4月から大きく変化することとなる。

 

4~9月

 そして、ついに4月7日には8都道府県に緊急事態宣言が発令され、16日には全国に拡大適用された。この措置は翌5月25日に全面解除されるまで約1か月半続いた。解除後も引き続き経済的には停滞する状況が根強く残ることとなる。

多くの企業では出勤が停止され、テレワークへ移行し、飲食店は営業を取りやめるか、極めて短時間の営業を余儀なくされ、全国の各都市では「ゴーストタウン」のような光景が見られたことは読者も鮮明に記憶していることと思う。

在日外国人の生活が激変したのはこの4月ころからだろう。この時期の大きな動きを在日ベトナム人の事例をもとに示してみたい。

 

在日ベトナム人留学生、実習生をめぐる大きな変化は主として

①ベトナム本国へ帰国できない(日本へ出国できない)

②解雇されるか仕事が減って収入が激減またはゼロになる

③学校に通えなくなって勉強できなくなる

といった3つのマイナス要素が挙げられ、このいずれもこれまでの暮らしに大きな衝撃を与えたことは言うまでもない。

 

 こうした問題のうち、①については5月上旬ころの段階で外国人材会社のウェブサイトなどにおいて注目されるようになっており、②及び③についても、ほぼ同時期にNHKなどの報道各社で取り上げられるようになってきた。

 

 行政も②や③のような状況を座視しているわけではなく、出入国在留管理庁は4月の段階で技能実習生や特定技能の在留資格を有する外国人のうち、母国への帰国が困難になったり、受入企業からの解雇などによって仕事が継続できなくなった人々を対象に「特定活動」への在留資格の変更を認める通知を出した。

 

 この資格では、引き続き日本国内での滞在が可能になるほか、技能実習生や特定技能の資格では不可となっていた職種の変更が可能となり、働き口が限定されていたこれら資格保有者の就労に対する自由度が増すこととなった。

 たしかに、こうした措置は職の場を失った外国人への救済策ともいえる一方、受入企業側もコロナ禍で経営が厳しいところが多いことには変わりないだろう。ゆえに、どれだけ実効性が確保できるのかといった点は今後も検討する必要があると思われる。なお、「特定活動」への資格変更をめぐる問題については今後も注目していきたい。

 

10~12月

 10月から12月にかけての期間は、外国人の来日が一定程度認められる一方、国内で発生した外国人犯罪がコロナ禍と結び付けられて報道される傾向が目立った。

 まず、外国人の入国制限については9月以降、短期出張の日本人や外国人などに限定した形で制限の一部解除を行い、10月には中長期滞在者に対象を拡大した。日本政府観光局の公表資料によれば、入国者数は9月に半年ぶりに1万人を超え、10月は2万7千人であったものの、依然としてコロナ禍前の基準を回復していない模様である。

 

 ちなみに、10月の国別入国者数では、ベトナムが最多で約6200人、次いで中国約4500人、韓国約2000人であるという。このうち、中長期滞在者が技能実習生や特定技能を在留資格として来日していることは言うまでもない。僅かばかりではあるが、何とか回復の傾向を示せてきたようである。

 一方、このコロナ禍と絡めて外国人犯罪を取り上げる報道が目立ったのもこの時期である。

 

 群馬県太田市では、10月28日、ベトナム人の元技能実習生の男らが自宅で豚を違法に解体した容疑で逮捕され、11月1日にも埼玉県上里町で同様の行為でベトナム人が逮捕された。群馬、埼玉いずれも今年の夏ころから豚などの家畜の窃盗が相次いでおり、警察も関連した捜査を続けていたさなかの逮捕劇であった。なお、群馬の事件については11月18日に前橋地検で不起訴処分となった模様である。

 これら元技能実習生らによる窃盗事件は、報道のみならず、ツイッターなどのSNS上でも少なからぬ反応があった。

 

 これらの主な論調では、この事件を単なる外国人による窃盗ではなく、「コロナ禍で仕事を失った多くの外国人が犯罪に走る」などといった見立てや、今後の外国人材受け入れと絡め、「外国人が犯罪をしても免責されるようになる」と述べるなど、消極的な見方を示すなどして、社会と外国人との在り方についてこれまでの動きを批判的に捉えるコメントやツイートも多く見受けられた。これ以降、執筆段階(12月中旬)で同様の事件が大きく報じられることは少なくなったものの、外国人をめぐり、日本の社会がポスト・コロナの時代にどのように捉えていくべきか考える上で大きな波紋を投げかける事件であったといってもよいだろう。

 

 秋から冬にかけ、人の出入りが緩和されるにつれて、経済活動の復調が目立ってきた一方、これまであまり注目されなかった事象に大きな注目と批判的な見方が急浮上したのがこの時期の特徴であったといえよう。

 

 

 このように簡略ではあるが、2020年を振り返ると、留学生、実習生をとりまく状況は激変した。

 私たちは、戦争や災害でも発生しない限り、自由に国内外へ行き来でき、もし仮にそういった事態が訪れたとしても数か月で済む一過性の出来事だと高をくくっていたきらいがあった。グローバリズムは不可逆的であり、常に利便性がすべてを凌駕すると考えていた世界に突如、新型コロナウィルスは挑戦と疑問を突き付けた。

 

 日本に住む外国人についても、春の段階で帰国や入国が完全にストップし、なおかつ、ほぼすべての業種における経営悪化に伴って、多くの外国人が働き口をなくしたり、収入が大幅に減ったため、危機的な状況に追い込まれた。しかし、5月に緊急事態宣言が解除されて以降、徐々に経済活動が回復し、12月に至り、技能実習生の受け入れも徐々にではあるが再開の見込みが立ってきたところである。ただ、外国人犯罪に対する社会の見方にも大きな変化が見られ、今後の動向が注目されるところである。

 

 「コロナ禍」は、2021年初頭から、ますます深刻さを深めている。

 昨年11月ころから東京や北海道をはじめとする地域での感染者数の上昇に歯止めがかからなくなってきた中、再度の緊急事態宣言や入国制限が実施され、当然のことながら来日する外国人材の受入はストップした。そうなれば、日本に住む外国人の雇用も再度大きな被害を受けることが予想される。

 

 他方、このような中で新型コロナウィルス・ワクチンの実用化に目途がつき、その大規模接種がイギリスやアメリカなど一部の国で開始されるなど、「コロナ禍」脱却に向けた光明もわずかながら見えはじめてきた。日本におけるワクチン接種ももうすぐ始まる。新型コロナウィルスそのものを完全に根絶することは極めて困難なことは、感染症の歴史からも明らかであり、もうしばらく不自由な状態が継続すること間違いないように見える。 その中で、外国人留学生、実習生を受入れはどのように進むのか?

 新しい共生社会を生み出せるかどうか、苦闘する現場の声を、微力ながら発信していきたいと思う。